鹿島茂コレクション鑑賞之心得
子供より古書が大事と思いたい ― なんと衝撃的な言葉でしょう。そんな親いるの!?と目を覆いたくすらなります。実はこちら、鹿島茂(かしましげる)なる人物が1996年に発表したエッセイのタイトル。フランス文学者として明治大学で教鞭を執る傍ら、古書マニアとして19世紀のフランスで出版された稀覯本(歴史的価値の高いヴィンテージ本)の収集に励みつつ、集めた古書を資料にしながら文学解説書やエッセイ本を次々と執筆したりしているお方です。肩書は文学者ながらエロにも造詣が深く、広い守備範囲と愉快軽快な語り口に魅せられて、たった一冊読んだだけでわたしはファンになってしまいました。
そんな鹿島先生が身銭を切って集めてきたヴィンテージ絵本のコレクションが一堂に会する展覧会が本日3月21日(祝)より、東京都目黒区の庭園美術館にて始まります。その名も『鹿島茂コレクション フランス絵本の世界』展。フランスかぶれな紳士淑女のみなさま、血が騒ぎませんか?多分に漏れずわたしもフランスに憧れを持つ一人であり、過去に開催された鹿島茂コレクションにもこれまで二度、足を運びました。
昨年5月、何の気なしに出かけた練馬区立美術館での『パリ時間旅行』展。そして半年後の12月、先生から直々にいただいたチケットを握りしめ向かった群馬県、館林美術館の『フランス絵本の世界』展。身をもって体験したから言える。鹿島茂コレクションはとんでもないぞ!一度目の練馬で圧倒され、打ちのめされ、その教訓を胸に挑んだ館林でもなお完膚なきまでに骨抜きにされたわたしは「ああ」「もう」「すごい」以外の語彙力を奪われるという事態に見舞われました。
日頃から様々な美術展に出向くことも多いのですが、鹿島先生の展示は明らかに「量」と「質」においてその他の展覧会とは一線を画しています。所狭しと飾られたコレクションの数々。目の前に広がる本と絵の海。まるで当時にタイムスリップしたかのようにパリの街並みや子供たちの暮らしが鮮やかに目に浮かんできます。展示数もさることながら、解説の素晴らしさたるや!ここまで懇切丁寧に解説がなされた展覧会は見たことがありません。「展示と解説」という美術館お決まりの形式の中に、溢れんばかりの情熱や、こだわりや、意地や、愛やらが詰め込まれているのです。少々大げさかもしれませんが、先生のコレクションを通じて、わたしは鹿島茂というひとりの人間の生きざまを垣間見た気がしました。
さあ、ここまで書けばおわかりでしょう。みなさんを待ち受けるのはもはや「展覧会」ではなく「小宇宙」です。これでもかと現れる素敵な展示、読まずにいられない解説文。心と頭はフル稼働です。必要な対策は、エネルギー補給・休憩・アウトプット。これらを怠ると思考停止や放心状態に陥り、最悪の場合には家で寝込んだり翌日の仕事を休む羽目になったりします。ということで、後学のためにも鹿島茂コレクション鑑賞時の心得を書き記します。
~鹿島茂コレクション鑑賞時の心得~
一つ、前日は十分に睡眠時間を確保せよ
二つ、鑑賞前に腹ごしらえをせよ
三つ、館内の椅子でこまめに休憩せよ
四つ、鉛筆とノートを持参せよ
五つ、時間はたっぷり確保せよ
美術館好きな方は日頃から実践していそうなものばかりですね。それでもダメ押ししたくなるくらい、鹿島コレクションはとんでもないぞ!庭園美術館ではその名の通り庭園も楽しめます。お天気に誘われて、何かの予定のついでに気軽に出掛けても十二分に楽しめるはず。でも、せっかくならば、じっくりと先生のコレクションと向き合って19世紀のパリにひたってみませんか?ほんの少し準備をして行くだけで心と体に余裕が生まれて、鹿島ワールドをより深く味わえること請け合いです。