みんな違って、みんないい
突然ですが、わたし、仕事中のお昼休みは職場のそばの日本庭園で過ごすことが多いんです。コンクリートに囲まれて空調ガンガン効いた空間が苦手なので、束の間のエスケープということで都会のオアシスに癒されに行くのです。
先日、いつものように庭園のベンチでお弁当を食べていたとき、ふと足元が気になって地面に目をやりました。すると、わたしの中指くらいもある青虫がアクロバティックに動いていらっしゃるではありませんか。おったまげ!これまでそんな大きな青虫なんて見たことなかったし、そもそも虫とかあまり得意ではないし、こいつはなかなかきm...と思いかけたのですが。
いやいや、どうにも目が離せない。
まず、色がとても綺麗。葡萄界のキングことシャインマスカットにも負けていないのでは?というくらいの鮮やかで澄んだグリーンのボディ。
次に、なんかいじらしい。健気。そうやってわたしがじいっと見ている間にも、彼は全身を伸び縮みさせながらちょっとずつちょっとずつ地面を進んでいく。
これはなかなか、面白い。
鳥やハチみたいにぴゅーんと一思いに移動できたらいいのにね。羽やら足やらがあれば行きたいところにさっさと行けるものを、どうして君はこんなにも地道に動いていくのだろうね。どうして神様は、君をこういう風に創ったのだろう...と思いかけたのですが。
いやいや、ちょっと待てよ。
そもそも、彼は鳥や人間やその他の生き物と比べて「自分も空を飛べたら」「足があって歩けたら」とか思うことすらしないのではないか。ひょっとしたらそういう感情も持っているかもしれないけれど、そうだとしても彼らは人間のことなんてきっと歯牙にもかけない。現に、目の前の彼はわたしになんか目もくれず、せっせと歩みを進めていく。すごく地味。だけど、とてもよくできている。過不足なし。彼は彼で完璧なのだ。
みんな違って、みんないい。
ああ、このことだったのかと、小学生の頃に覚えた言葉の意味が本当にわかりました。当たり前だけど気づかないことを、こんなにもシンプルに美しい言葉に残した金子みすゞさんはすごいなあ。
みんな違って、みんないい。
だから、わたしも周囲の人たちと自分を比べて、勝手に嘆いたり不幸になったりする必要などないのだなあ。
さてさて、青虫の彼はというと。
ベンチにはわたし以外にも数人の人がいたけれど、わたし以外は誰も彼に気づいていないのです。もどかしい。こんなにも面白いのに!今や彼はわたしの前をぐるっと通り過ぎ、斜め後ろのおっちゃんの足元へと向かっています。
ですが、おっちゃん、まったく気づいていない。
涼しい顔をして夏の庭園で一息ついている。
そこで地面を指さしてみたら、おっちゃん、うわあっと両手足を宙に浮かせて驚いた。漫画みたいに。思わず笑ってしまいました。
「最初はこっちにいたのに、ぐるっと回ってそっちまで言ったんですよ」と話しかけると、「ご苦労様です」とおっちゃん。わたしも、「がんばるなあ」と思いましたよ。
だけれども、気づいたのです。
そもそも、彼はがんばっているつもりはないのだろうな、と。地を這い、土に潜り、ちょっとずつ進んでいくのが彼の生き方であり、天命であり、あるべき姿。だからこちらが勝手に人間の尺度で歩みを比べて彼をねぎらうなんて、おこがましいことなのではないかと。
みんな違って、みんないい。
平成最後の、8月の最後に感じたことでした。